コロナ禍で業績が悪化した上場企業等では、減資により資本金額を1億円以下とするケースが見受けられるようになりました。その目的は様々あるようですが、税務上、資本金額が1億円以下の法人(以下「中小法人等」といいます。)に対しては、資本金額1億円超の法人(以下「非中小法人等」といいます。)に比べて財務状況が脆弱と考えられること等の理由から様々な優遇措置が設けられており、その代表例が青色欠損金の繰越控除限度額が異なることです。また、法人事業税では非中小法人等に対しては外形標準課税が適用されますが、中小法人等には適用されません。

 (1)  青色欠損金の繰越控除

 各事業年度開始の日前10年(平成30年4月1日前に開始した事業年度において生じた欠損金額の繰越期間は9年)以内に開始した事業年度で青色申告書を提出した事業年度に生じた欠損金額は各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入されます。この点においては中小法人等と非中小法人等に違いはありませんが、各事業年度の損金算入限度額は異なることになります。

各事業年度の損金算入限度額

中小法人等

青色欠損金繰越控除前の所得金額(A)と青色繰越欠損金のいずれか少ない金額

非中小法人等

(A) ×50% と 青色繰越欠損金 のいずれか少ない金額

例えば、当期の青色欠損金の繰越金額(当期控除前)が8,000万円、青色欠損金繰越控除前の所得金額が5, 000万円だった場合の課税所得の計算はそれぞれ次のようになります。

青色欠損金繰越控除前の所得金額

青色欠損金繰越控除限度額

控除後課税所得

翌期以降に繰越す青色欠損金額

中小法人等

5, 000

5, 000

0

3, 000

非中小法人等

5, 000

2, 500

2, 500

5, 500

 当期の繰越控除限度額が異なりますが、翌期以降も所得金額が生ずる状況が継続するのであれば、非中小法人等もいずれは青色欠損金をすべて控除できる可能性はあります。しかし、コロナ禍での著しい業績悪化により多額の青色欠損金が生じたものの、その後の事業年度において単年度では所得が生じるようになるまで業績が回復した非中小法人等の場合には、コロナ禍で悪化した財政状態が十分に回復しないままに税負担が重く伸し掛かることも考えられます。また、本業での損失補てん、財政状態の回復を図る目的で固定資産や有価証券等の資産売却を行ったものの、その売却により生じた税負担が財政状態の回復の妨げになってしまう可能性も考えられるところです。

 (2)  外形標準課税(法人事業税)

 中小法人等に対する法人事業税の課税標準は所得基準である「所得割」のみですが、非中小法人等に適用される外形標準課税では「所得割」のほか、外形基準として「付加価値割」及び「資本割」による税負担が生じます。「所得割」は課税所得(利益)が生じなければ納税はありませんが、「付加価値割」と「資本割」は会社規模等による相応の税負担を求める目的であるため、利益に関係なく一定の税負担が生じることになります。「中小法人等に対する所得割の税率」と「外形標準課税適用法人に対する所得割の税率」が異なっているなど、「所得割」の課税所得が多額に上る場合には、外形標準課税適用法人の方が法人事業税の負担が減少するケースもあります。ただし、コロナ禍等で著しい業績悪化となった場合には、外形標準課税による税負担が重くなっている法人も多いものと思われます。

「税理士懇話会(税務研究会)の一口解説より転載」